※『ペスト』(カミュ/著 宮崎嶺雄/訳 新潮文庫)の名言を紹介
こんにちは、『文人』です。
小説『ペスト』は、ノーベル賞作家カミュの代表作。
新型コロナウイルスの感染拡大による混乱、都市封鎖、自粛などの状況をまさに描いたかのような内容が評判になり、ベストセラーとなりました。
本書のテーマのひとつは、
「絶望的な不条理に立ち向かう」
古典の名作として読み継がれる『ペスト』には、時代を越えて読者の心に訴えかけるものがあります。
今回はそんなカミュの『ペスト』の中から名言をわかりやすく紹介していきます。
名言①
医師ベルナール・リウーは、診療室から出かけようとして、階段口のまんなかで一匹の死んだ鼠につまずいた。
四月十六日の朝、医師ベルナール・リウーは、診療室から出かけようとして、階段口のまんなかで一匹の死んだ鼠につまずいた。
『ペスト』の舞台は、アルジェリア北西部の都市オラン。
主人公は、男性医師「リウー」。
それはネズミの不自然な死からはじまりました。
街頭に出てきたネズミが、もがき苦しみ、血を吐き、ばたばたと死んでいく。
「リウー」も、ほかの人々も、気にせず日常生活を送っていました。
ところが、ネズミの死体はどんどん増え続け、そしてとうとう人が亡くなります。
ネズミから人へ、人から人へ。
感染は次々に広がり、死者が日に日に増えていったのです。
名言②
この世には、戦争と同じくらいの数のペストがあった。しかも、ペストや戦争がやってきたとき、人々はいつも同じくらい無用意な状態にあった。
天災というものは、事実、ざらにあることであるが、しかし、そいつがこっちの頭上に降りかかってきたときは、容易に天災とは信じられない。この世には、戦争と同じくらいの数のペストがあった。しかも、ペストや戦争がやってきたとき、人々はいつも同じくらい無用意な状態にあった。
感染した人々は高熱を出し、炎症を起こし、もがき苦しみながら亡くなっていく。
当局はこの状況をペストによる感染拡大と認定し、オランの都市は閉鎖されました。
人々は最初、それがペストだと信じませんでした。
そしていよいよペストと認定され、都市が閉鎖されるにいたり、不安や混乱が広がります。
災害は歴史上、何度となく起こっている。
しかし過ぎ去ってしまえば忘れられていく。
たとえ災害が迫ってきても、自分は大丈夫だと思ってしまうのが人間のさが。
教訓を活かすことの難しさを突いた名言です。
名言③
あなたには理解できないんです。あなたのいっているのは、理性の言葉だ。
「いや」と、ランベールは苦っぽくいった。「あなたには理解できないんです。あなたのいっているのは、理性の言葉だ。あなたは抽象の世界にいるんです」
新聞記者「ランベール」は、たまたま仕事でオランに滞在していました。
そこでペストの災禍に遭い、都市の閉鎖により、外へ出られなくなってしまいました。
離れた場所で待つ恋人のもとへ帰りたい「ランベール」。
しかしいくら当局に訴えても、外へ出る許可が下りない。
医師「リウー」は、そんな「ランベール」に同情します。
外へ出たい気持ちは理解できるが、この状況を受け入れるしかない。
そう言った「リウー」に対して、「ランベール」は反発します。
「あなたには理解できないんです。あなたのいっているのは、理性の言葉だ」
理性から出た言葉は、いわば正論。
しかし正論は他人事の冷たい言葉になりやすい。
時には相手の心を傷つけ、隔たりを生んでしまう。
理性と感情。
その葛藤のドラマに心を揺さぶられます。
名言④
世間に存在する悪は、ほとんど常に無知に由来するものであり、善き意志も、豊かな知識がなければ、悪意と同じくらい多くの被害を与えることがありうる。
世間に存在する悪は、ほとんど常に無知に由来するものであり、善き意志も、豊かな知識がなければ、悪意と同じくらい多くの被害を与えることがありうる。
『ペスト』にはこのような厳しい言葉も記されています。
善かれと思って実行したことが、逆に、混乱や被害につながってしまう。
正義感やモラルは、行き過ぎれば悪になり得るのです。
また、こうも書かれています。
「最も救いのない悪徳とは、自らすべてを知っていると信じ、そこで自ら人を殺す権利を認めるような無知の、悪徳にほかならぬのである。」
「最も救いのない悪徳」。
それは、自分が無知であるのを自覚していないこと。
何かを知るというのは簡単ではありません。
本を読んだり、新聞を読んだりしても、知ったつもりになっているだけかもしれない。
直接に知ったわけではないのだから。
すべての人間に反省を促すような名言です。
名言⑤
私には気持ちがいいんですからね、ペストのなかで暮すのが。
「それに、私には気持ちがいいんですからね、ペストのなかで暮すのが。(中略)」
登場人物の中で、特に変わった振る舞いをする男がいます。
それが「コタール」です。
「コタール」は過去に罪を犯していました。
逮捕を恐れ、鬱状態になり、自殺しかけていた彼。
しかしペストによって社会に混乱や不安が広がると、一転して、陽気になります。
「コタール」は元から不幸で孤独な人でした。
ペストは、まわりの人々を自分と同じような不幸で孤独な状況に引きずり込んでくれた。
「コタール」はそう考え、ペストの中で人々との一体感を味わいながら、愉快に過ごすのです。
人々の不幸を喜ぶタイプの人間がいます。
劣等感、寂しさ、生きづらさ……
カミュはそういう心の弱さを持った人間も丁寧に描いています。
名言⑥
ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです
「(中略)これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」
主人公の医師「リウー」の名言です。
ペストの危機を乗り越えるのに必要なのは、英雄ではない。
ふつうの人間の誠実さなのだ。
「リウー」はそう考え、目の前の仕事に粘り強く取り組みます。
感染症は今までの暮らしを大きく変えてしまう。
当たり前のように思い描いていた未来も壊れてしまう。
「こんな状況にさえならなければ」
と恨めしく思う日々。
現実逃避したくなりますが、この状況を乗り越えるためには、目をそむけない誠実さが必要です。
壊れてしまった未来は、自分たちの手で築き直す。
そのために今できることを考え、取り組みたいですね。
名言⑦
自分一人が幸福になるということは、恥ずべきことかもしれないんです
「しかし、自分一人が幸福になるということは、恥ずべきことかもしれないんです」
外で待つ恋人のもとへ帰るため、閉鎖されたオラン市から脱出したい「ランベール」。
たまたま滞在していただけで、オランの住民とは無関係だった彼。
しかし住民と関わるうち、彼の心には、自分もオランの人間だという意識が芽生えはじめていました。
「ランベール」はオランに残り、住民と一緒にペストに立ち向かう決心をします。
幸福とは何か。
ほんとうの幸福とは、持続させ、分かち合うもの。
仮に自分一人だけが幸福になったとしても、きっと長続きしないでしょう。
周りの人間を見捨て、自分だけの刹那的な幸福を求めても、ほんとうの幸福は得られません。
そればかりか、後悔することになる。
『ペスト』は、誰もが孤立しやすい状況のなかで、「心の連帯」を描いた作品なのです。
名言⑧
ペストが再びその鼠どもを呼びさまし、どこかの幸福な都市に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろう
(中略)ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもないものであり、数十年の間、家具や下着類のなかに眠りつつ生存することができ、部屋や穴倉やトランクやハンカチや反古のなかに、しんぼう強く待ち続けていて、そしておそらくはいつか、人間に不幸と教訓をもたらすために、ペストが再びその鼠どもを呼びさまし、どこかの幸福な都市に彼らを死なせに差し向ける日が来るであろうということを。
『ペスト』の最後は、この言葉で結ばれます。
ペストの感染拡大が抑えられ、オラン市の閉鎖が解かれました。
解放の喜びに浸る人々。
その様子を眺めながら、「リウー」はひとりで考えます。
自分たちは常におびやかされている。
ペストがこの世界から消えることはない。
人々はそれを忘れるだろうが、いつかペストが再び襲ってくるだろう。
「ペスト」とは何か。
それは具体的な感染症のことだけではありません。
カミュは、戦争、災害、ウイルスなど、人々にさまざまな不幸をもたらすものの比喩として『ペスト』の物語を遺したのです。
おわりに
カミュの『ペスト』は、読み直すたびに新しい発見がある名作小説です。
たとえフィクションの物語でも、書かれている言葉は本物。
現代のさまざまな問題を突くような名言がたくさん見つかります。
どんなに辛くても、他人を排除し、孤立してはいけない。
災害に立ち向かうためのたったひとつの希望は、「心の連帯」。
『ペスト』はそんなメッセージを私たちに訴えかけているのです。
気になった人はぜひ本を手に取ってみてください。
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