まるで恋愛漫画!?胸が切なくなる川端康成『雪国』の名言集
※川端康成『雪国』の名言紹介
こんにちは、『文人』です。
小説『雪国』は、川端康成の代表作。
雪国の温泉町を舞台に、男女のはかなく繊細な交情が描かれます。
旅先で出会った女を忘れることができず、雪国へ通う主人公「島村」。
「島村」を想い、ひたむきな愛情をみせる雪国の芸者「駒子」。
2人の純粋な恋のありさまが、美しい文章を通してみずみずしく伝わってくる名作です。
「日本文学だから、なんか堅苦しくて古そう……」
と思っている人もいるかもしれませんが、実は、恋愛漫画のようにドラマチックで綺麗な場面ばかり。
今回はそんな『雪国』の中の名言をわかりやすく紹介していきます。
名言①
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。
作品の舞台は雪国の温泉町。
汽車で長いトンネルを抜けると、そこはまるで異国のような銀世界でした。
夜の車窓の眺めは、降り積もった雪で白くぼんやりしています。
夜の黒と、雪の白。
このコントラストが鮮やかで、情景が目に浮かぶよう。
「白」のイメージ。
それは雪であり、清潔さであり、女の肌であり…。
『雪国』は色を強調する描写が多く、色の対比が鮮やかな小説です。
名言②
結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている
(中略)島村は退屈まぎれに左手の人差指をいろいろに動かして眺めては、結局この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている、はっきり思い出そうとあせればあせるほど、つかみどころなくぼやけてゆく記憶の頼りなさのうちに、この指だけは女の触感で今も濡れていて、自分を遠くの女へ引き寄せるかのようだ(中略)
主人公「島村」は、東京から雪国の温泉町へ向かう途中です。
彼の目的は、ある女に会うことでした。
その女は1年前に1度会っただけの相手。
あまりはっきりとは思い出せません。
でも左手の人差指だけは、女の肌の温もりを鮮明に覚えている。
冬の寒さのなか、左手の人差指に残った温もりから、女への想いをつのらせる「島村」。
肉感的な表現が生々しいこの場面。
頭に浮かぶどんな記憶よりも、指が相手を覚えている。
本能的にその人に惹かれているのです。
名言③
そうでなければ、誰が年の暮にこんな寒いところへ来るものか。
「君はあの時、ああ言ってたけれども、あれはやっぱり嘘だよ。そうでなければ、誰が年の暮にこんな寒いところへ来るものか。後でも笑やしなかったよ。」
雪国の温泉宿で、「島村」は女と再会します。
その女「駒子」は、若い芸者。
ふたりは去年、初めて出会った時のことを振り返ります。
お互いに気心が通じ、男女の関係になったこと。
「駒子」のほうから激しく「島村」を求めたこと。
旅人と芸者、長続きしない恋愛であることはわかっていても、気持ちを抑えきれず関係を結んでしまった「駒子」は、泣きながら「島村」に言います。
「心の底で笑ってるでしょう。今笑ってなくっても、きっと後で笑うわ。」
けれども、「島村」は「駒子」を見捨てませんでした。
彼は「駒子」を求めて、再び雪国を訪れました。
「そうでなければ、誰が年の暮にこんな寒いところへ来るものか」
過去に1度会っただけの女に惹かれるあまり、12月に雪国まで来てしまう。
そんな「島村」のロマンチストな性格が感じられるセリフです。
名言④
「つらいわ。ねえ、あんたもう東京へ帰んなさい。つらいわ。」
「つらいわ。ねえ、あんたもう東京へ帰んなさい。つらいわ。」と、駒子は火燵(こたつ)の上にそっと顔を伏せた。
芸者の仕事の暇をぬすみ、「島村」の泊まる部屋に入り浸る「駒子」。
夜中に来て、そのまま朝まで休んでいくこともしばしば。
「島村」が泊まっている間、少しでも一緒に居たい。
しかし、「島村」との関係が深まるほど、心は辛くなってくる。
「もう東京へ帰んなさい」
と促す一方、本心では帰ってほしくない。
「駒子」の葛藤がリアルに伝わってくる場面です。
「島村」は旅の人。
一緒にはなれないとわかっていても、身を焦がすほど彼を求める「駒子」。
恋愛の駆け引きなどなく、ひたむきに相手を愛することの辛さ。
そんな「駒子」の純粋な生き方が、小説全体のテーマとして描かれています。
名言⑤
「一年に一度でいいからいらっしゃいね。私のここにいる間は、一年に一度、きっといらっしゃいね。」
「一年に一度でいいからいらっしゃいね。私のここにいる間は、一年に一度、きっといらっしゃいね。」
「駒子」と別れ、東京へ帰る「島村」。
翌年の秋、「島村」は3度目の雪国を訪れます。
再会した「駒子」は、ずっと「島村」を待ちわびていました。
(あの人はもうここには来ないかもしれない)
(自分は捨てられるかもしれない)
そういう不安の中で、男を待ち続ける「駒子」。
「一年に一度でいいからいらっしゃいね」
と熱心に頼む「駒子」の言葉には、哀しい響きがあります。
名言⑥
ほんとうに人を好きになれるのは、もう女だけなんですから。
「それでいいのよ。ほんとうに人を好きになれるのは、もう女だけなんですから。」と、駒子は少し顔を赤らめてうつ向いた。
「島村」の泊まる部屋に何度となく通い続ける「駒子」。
狭い村なので、ふたりの関係はもう周囲に知れ渡っています。
田舎では、悪い評判が立つとおしまい。
しかし、どんな評判が立っても構わないと「駒子」は言います。
「ほんとうに人を好きになれるのは、もう女だけなんですから」
「駒子」の言葉には、どこまでも相手を想い続ける女の覚悟のようなものが感じられます。
名言⑦
駒子が虚しい壁に突きあたる木霊に似た音を、島村は自分の胸の底に雪が降りつむように聞いた。
(中略)駒子が自分のなかにはまりこんで来るのが、島村は不可解だった。駒子のすべてが島村に通じて来るのに、島村のなにも駒子には通じていそうにない。駒子が虚しい壁に突きあたる木霊に似た音を、島村は自分の胸の底に雪が降りつむように聞いた。このような島村のわがままはいつまでも続けられるものではなかった。
「島村」への恋に全力を傾ける「駒子」。
しかし彼女の想いに、「島村」は応えることができない。
「島村」はすでに結婚しており、東京に妻子がいます。
定職に就かず、親譲りの財産で暮らしています。
安楽な身分ではあるが、空虚でもある。
「島村」には、「駒子」と一緒になり、新しい生活へ踏み込んでいくような現実的な甲斐性がないのです。
年に1度、雪国に通い、「駒子」との非現実的な逢瀬を味わう。
そんな「島村」の態度は「わがまま」であり、いつまでも続けられない。
「駒子」から離れなければならない。――「島村」はそう決意します。
名言⑧
「天の河。きれいねえ。」
「天の河。きれいねえ。」
駒子はつぶやくと、その空を見上げたまま、また走り出した。
ああ、天の河と、島村も振り仰いだとたんに、天の河のなかへ体がふうと浮き上ってゆくようだった。天の河の明るさが島村を掬い上げそうに近かった。(中略)
ある夜、村で火事が起こります。
騒ぎになり、現場へ向かう人々。
「島村」と「駒子」も走る。
見上げると、冬の澄んだ夜空に天の川銀河が横たわっている。
吸い込まれそうな星明りに、「島村」は目をうばわれるのでした。
「天の川」と聞くと、1年に1度だけ再会することを許された織姫星と彦星の伝説が思い浮かびます。
『雪国』の物語はまるでその伝説のよう。
「島村」と「駒子」の恋は純粋ですが、非現実的でもあります。
ふたりの関係は、はかなく、美しく、どこにもたどり着けません。
名言⑨
なぜか島村は別離が迫っているように感じた。
いつの間に寄って来たのか、駒子が島村の手を握った。島村は振り向いたが黙っていた。駒子は火の方を見たままで、少し上気した生真面目な顔に焔の呼吸がゆらめいていた。島村の胸に激しいものがこみ上げて来た。駒子の髷はゆるんで、咽は伸びている。そこらにつと手をやりそうになって、島村は指先がふるえた。島村の手も温まっていたが、駒子の手はもっと熱かった。なぜか島村は別離が迫っているように感じた。
火事現場に到着したふたり。
燃え上がる炎をみつめながら寄り添います。
「駒子」が「島村」の手を握ってきます。
「島村」の胸に湧き起こる激しい感情。
それは「駒子」への愛情でしょうか。
どんな恋にも、別れが必ず来る。
『雪国』は火事の場面で、唐突に終わります。
「島村」と「駒子」の関係が最後まで描かれることはありません。
ふたりの想いが高まり、美しく、そして最も緊張感のあるところで、作者は筆を置くのです。
まとめ
『雪国』は視覚や想像力に強く訴える場面が多い小説です。
恋愛漫画のように綺麗な場面が展開され、男女のやりとりもドラマチックで、セリフも光っています。
あなたもぜひ美しい文章を味わいながら、『雪国』の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。
きっと新鮮な読書体験になり、胸がキュンとなりますよ。
興味を持った人は、ぜひ本を手に取ってみてください。
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