人間関係で傷ついた時に読みたい名作――夏目漱石『こころ』の魅力
※夏目漱石『こころ』の内容紹介
こんにちは、『文人』です。
小説『こころ』は、文豪・夏目漱石の代表作。
恋に苦しみ、親友との関係に苦しみ、孤独を抱えながら自殺してしまう主人公。
人間関係で傷ついていく様子が繊細に描かれており、若い人にも読まれ続けている名作小説です。
誰かを好きになって苦しんだり、信頼していた人から裏切られたり……
人生のなかで誰もが経験する人間関係の悩みが、澄んだ言葉づかいで表現された本作。
今回はそんな夏目漱石『こころ』の内容と魅力をわかりやすく紹介していきます。
『こころ』のあらすじ
「私」はまだ若々しかった学生の頃、鎌倉の海で「先生」と出会います。「先生」は美しい奥さんと東京でさびしく暮らしていました。仕事をせず、世間との交際も少ない「先生」。「私」は「先生」と交流を深めようとしますが、消極的な「先生」の態度に、物足りなさを感じます。それでも「私」は、不思議な「先生」の魅力に引き寄せられていくのでした。
「先生」には秘密にしている過去がありました。その過去について知りたい「私」は、「先生」を問い詰めます。すると「先生」は、時期が来たら話すと約束してくれました。
「私」は大学を卒業し、その後の進路が決まらないまま、故郷の実家へ帰省することになります。
故郷の実家へ帰省した「私」。両親は「私」の大学卒業を喜びます。大学を出たのだから、良い就職をして良い地位を得られるだろう。両親はそう期待をしていますが、「私」はまだ進路を決めかねているのでした。
「私」の帰省中に、父親が病に倒れます。かねてから患っていた病気が悪化したのでした。「私」は東京へ戻る準備をしていましたが、実家に留まり、病床の父親を見守ります。
そんな時、「先生」から長い手紙が来ました。その手紙は、「先生」の遺書。「私」は居ても立ってもいられず、東京行きの汽車に飛び乗り、「先生」から送られてきた遺書を読みます。
「先生」は誰にも打ち明けられずにいた過去の罪を、遺書につづっていました。
「先生」には学生時代、「K」という親友がいました。2人は同じ下宿先で暮らすようになります。その時からしだいに「K」の様子が変わってきました。「K」は、下宿先の「お嬢さん」に恋をしている、と「先生」に打ち明けます。
「先生」はショックを受け、「K」に嫉妬します。「先生」も密かに「お嬢さん」に恋をしていたからです。
そこで「先生」は卑怯な手段で「K」を出し抜き、「お嬢さん」との結婚の約束を取り付けてしまいます。
後日、それを知った「K」は自殺しました。
「先生」は自分がやったことの罪に苦しみます。そして長く苦しみ続けた末、自殺を決心するのでした。
『こころ』の魅力
①「先生」の罪
主人公「先生」は、東京に家を構え、美しい奥さんと暮らしています。
外から見れば、お互いに愛し合っている幸せそうな夫婦。
それなのに、「先生」は自分をさびしい人間だと言います。
愛する奥さんとも微妙な距離を置き、他人とも積極的に関わろうとしません。
世間との交際はほとんどなく、仕事もせず、虚しい日々を送っている「先生」。
なぜそのような生き方をしているのか?
それは「先生」が、他人を恐れ、何より自分自身を恐れているから。
「先生」は過去に自分がやったことの罪に苦しんでいます。
他人と関わることで、自分の罪を知られたり、自分の利己的なずるい一面が出てしまったりすることを恐れているのです。
では、「先生」の罪とはどんなものなのか?
②三角関係――「先生」と「K」と「お嬢さん」
学生時代の「先生」には、「K」という親友がいました。
道徳や人間らしさを大事にする「先生」と、自分の道のためなら何を犠牲にしても構わないというストイックな「K」。
性格の異なる2人ですが、お互いに信頼し合っていました。
しかし下宿先の「お嬢さん」をめぐり、2人の関係に変化が起きます。
今まで女性にまったく関心のなかった「K」が、「お嬢さん」に恋をしたと打ち明けたのです。
それを聞いた「先生」は、「K」の心変わりにショックを受け、嫉妬します。
なぜなら、「先生」も密かに「お嬢さん」に恋をしていたからです。
一方、「K」は「お嬢さん」への恋に苦しみ、自己嫌悪します。
「K」は自分の気持ちを「先生」に打ち明けただけで、それ以上先には進めないのです。
それを見た「先生」は、卑怯な手段で「K」を出し抜き、「お嬢さん」との結婚の約束を取り付けてしまいました。
後日、そのことを知った「K」は自殺します。
この事件をきっかけに、「先生」は変わります。
「K」に対してやったことの罪を恐れ、自分に備わっている利己的な一面を恐れ、人間不信になっていきます。
「先生」と「K」と「お嬢さん」は三角関係。
「お嬢さん」の存在が、自分と「K」を固く結びつけている。
「先生」はそう考えます。
だから「お嬢さん」――今の奥さんの顔を見ていると、「K」のこと、「K」に対しての罪を意識せずにはいられないのです。
③人間の心変わり
「先生」は過去の罪のために、愛する奥さんと一緒に暮らしながらも決して幸福ではありません。
自分も他人も信じられず、世間に背を向け、孤独の中にいます。
かつてはその人の膝の前に跪いたという記憶が、今度はその人の頭の上に足を載せさせようとするのです。
『こころ』(夏目漱石/著 新潮文庫)より引用
この「先生」の言葉は、人間の心変わりをよく表しています。
「お嬢さん」に恋をしてから人が変わってしまう「K」。
「K」の心変わりにショックを受け、嫉妬し、親友をおとしめてしまう「先生」。
自分のことばかりを優先させた結果、親友を自殺へ追い込み……
自分も他人も信じられなくなり、孤独におちいっていく。
人間関係で傷ついていく様子が、『こころ』ではとても切なく描かれています。
おわりに――なぜ『こころ』を読むべきなのか?
『こころ』に描かれている、人間関係の難しさ。
相手に対して不満を抱いたり、失望したり、信じられなくなったり……こういう気持ちは誰にでもありますよね。
人と人とが向き合うと、心にさまざまな変化が起こるのは当たり前です。
しかしそのような心の変化を、私たちはなかなか上手に受け入れることができません。
結果、自己嫌悪したり、人間嫌いになったり、孤独を抱えたりします。
人間関係で傷ついた時、前に進むために必要なのは、
「人間とは何か」
自分の心と向き合いながら、知っていくことが大切。
夏目漱石の『こころ』は、きっとそのための手引きになりますよ。
興味を持ったら、ぜひ本を手に取ってみてください。
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