こんにちは、『文人』です。
金子みすゞ(1903-1930)は、山口県仙崎に生まれた童謡詩人。
26歳の若さで亡くなった、不遇の女流詩人として知られています。
みずみずしい感性。
すべての命を包み込むような優しいまなざし。
人の心の優しさに気づかせてくれるのが、金子みすゞの詩の魅力です。
そんな金子みすゞの詩の中から、読むだけで優しい気持ちになれる有名な詩を5つ紹介していきます。
①みんなちがって、みんないい
私と小鳥と鈴と
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
『金子みすゞ名詩集』(彩図社文芸部/編 彩図社)
P14「私と小鳥と鈴と」より
「私」と、「小鳥」と、「鈴」。
大きさも、種類も、能力も、みんな異なる三者。
「私」は、「小鳥」のように空を飛べない。
「鈴」のように綺麗な音が出ない。
「小鳥」にも、「鈴」にもなれない「私」。
でも、「小鳥」や「鈴」にだって、出来ないことはあります。
お互いに比べてみたら、出来ないことばかりの私たち。
出来ないことは、欠点でしょうか?
いいえ、それは、私たちの大切な「ちがい」です。
「みんなちがって、みんないい。」
私たちは「ちがい」があるからこそ、褒め合い、助け合える。
みんながちがう世界は、幸せな世界です。
②浜は祭りのようだけど
大漁
朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰯の
大漁だ。
浜は祭りの
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰯のとむらい
するだろう。
『金子みすゞ名詩集』(彩図社文芸部/編 彩図社)
P16「大漁」より
夜が明けて、太陽の光が浜に射します。
今朝の漁は、イワシの大漁。
「大漁だ」、「大漁だ」。
浜の人々は喜び、はしゃぎ、お祭りのよう。
とても楽しそうで、混ざりたくなりますね。
しかし、日の当たらない海の中には……
亡くなった家族や仲間を見送る、イワシたちの悲しみがあるのでしょう。
「何万」という悲しみが……。
明るい浜の人々の喜び。
その水面下には、暗い海のイワシたちの悲しみがある。
大切なのは、悲しみがあると想像すること。
悲しみは、いろいろなところに隠れています。
きっとあなたの身近にも。
③こだまでしょうか
こだまでしょうか
「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。
「馬鹿」っていうと
「馬鹿」っていう。
「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。
そうして、あとで
さみしくなって、
「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。
こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。
『金子みすゞ名詩集』(彩図社文芸部/編 彩図社)
P20「こだまでしょうか」より
何か言葉を投げかけると、同じ言葉が返ってくる。
ちょっと不思議な現象。
でも、これが私たちの日常です。
たとえば、あいさつ。
同じ言葉を交わすところから、人と人との交流が始まります。
「遊ぼう」から「ごめんね」までの一連のやりとり。
同年代の子どものやりとりを描いた詩のようですが、「」の言葉を変えれば、大人のやりとりにもなります。
声に出される言葉には、魂が宿る。
それが言霊です。
「遊ぼう」
「遊ぼう」
「ごめんね」
「ごめんね」
同じ言葉を交わした分だけ、お互いが大切な存在になります。
④小ちゃな蜂のなかに
蜂と神さま
蜂はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂のなかに。
『金子みすゞ名詩集』(彩図社文芸部/編 彩図社)
P32「蜂と神さま」より
「お庭」に咲いた「お花」のなかに、1匹の蜂がいる。
これだけなら、ごくありふれた自然観察です。
でも、金子みすゞの優しいまなざしは、外へ外へと移っていきます。
「日本」、それから「世界」、そして「神さま」へと。
では、「神さま」はどこにいるのか?
「小ちゃな蜂のなかに。」
小さな生き物から、大きな世界を経由して、再び小さな生き物へ。
すべてをまるごと包み込むような、美しい循環。
人の想像力は自由です。
それはつまり、どこに居ても、人は優しくなれるということ。
心が荒れている時には、深く息を吐いて、この詩を思い浮かべてみてください。
「小ちゃな蜂」を見ているあなたのまなざしは、きっと優しいはず。
⑤明るい方へ 明るい方へ
明るい方へ
明るい方へ
明るい方へ。
一つの葉でも
陽の洩るとこへ。
藪かげの草は。
明るい方へ
明るい方へ。
翅は焦げよと
灯のあるとこへ。
夜飛ぶ虫は。
明るい方へ
明るい方へ。
一分もひろく
日の射すとこへ。
都会に住む子等は。
『金子みすゞ名詩集』(彩図社文芸部/編 彩図社)
P38「明るい方へ」より
藪陰にひっそりと生えた草。
夜の世界で生きる虫。
狭い建物の下で生活する人。
さまざまな理由により、ひなたの世界に居られなくなった者たち。
「明るい方へ 明るい方へ。」
繰り返される言葉は、呼びかけのよう。
こっちだよ、おいで、と。
呼びかけられた者たちは、顔を上げて、明るい方を目指します。
「明るい方へ 明るい方へ。」
どんな者にも、希望があり、居場所がある。
優しい言葉は、人から人へと伝わって、いつか誰かを救うでしょう。
おわりに
簡潔で、リズミカルで、心がほんのり温まる。
金子みすゞの詩には、子どもから大人まで、すべての人の心に響く優しさがあります。
時間をかけてじっくり読んでみたり、声に出して味わってみたり。
詩集を一冊持ち歩いて、空き時間に開いてみたり。
好きな詩を見つけたら、誰かに贈ってみるのも素敵ですね。
この記事で、金子みすゞの詩の魅力が伝わっていたら幸いです。
気になった方は、ぜひ本を手に取ってみてください。
きっと色々な優しさに触れることができますよ。
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