【頑張る人に読んでほしい】太宰治『走れメロス』のあらすじと魅力
こんにちは、『文人』です。
太宰治の短編小説『走れメロス』は、太宰文学の中期を代表する名作です。
「タイトルは知っているけど、まだ読んだことがない」
「教科書で読んだけど、忘れてしまった」
という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
『走れメロス』は、まさに今、頑張っている人の心に刺さる小説です。
今回はそんな『走れメロス』の時代背景やあらすじを紹介しながら、作品の魅力を掘り下げていきます。
最後まで読んでいただけると嬉しいです!
『走れメロス』とは?
- 昭和15年(1940)、太宰治31歳の頃の作品。
- 当時は、第二次世界大戦下。
世界的には、ナチスドイツによる侵攻、ユダヤ人虐殺が行われています。
そして、日中戦争の真っ只中でした。 - 一方、この頃の太宰治はというと、仕事も私生活も円満でした。
昨年には、師・井伏鱒二の紹介で知り合った、石原美和子と結婚。甲府市での新婚生活がはじまっています。
執筆活動は安定し、原稿依頼も増え、優れた作品をいくつも世に出しています。
また、友人や仲間との小旅行も愉しんでいたようです。 - 青森県屈指の財産家の家に生まれ、たびたびの自殺未遂、薬物中毒、芥川賞の落選、最初の妻・初代の不倫など、若い頃から波乱万丈の生活を送ってきた太宰治。
『走れメロス』は、そんな太宰治の安定期を代表する作品です。
軽妙で、疾走感があり、太宰治の文才が見事に発揮されています。
『走れメロス』のあらすじ
村の牧人「メロス」は、結婚を間近に控えた妹のために、市まで買い物に出た。
すると、以前は賑やかだった市の様子が、ひっそりと寂しいことに気づく。
人に問いただすと、こんな答えが返ってきた。
王様が人を殺す。
悪心があると疑い、家族も、臣下も殺している。
王様は人を信じることができないのだ、と。
それを聞いた「メロス」は激怒した。
王城へ乗り込んだ「メロス」は、捕縛され、王「ディオニス」の前に引き出される。
「メロス」は「ディオニス」と対話し、約束を交わす。
処刑まで3日間待ってほしい。
村へ帰り、妹の結婚式を挙げたら、必ず戻る。
信じられないのなら、無二の友人「セリヌンティウス」を人質に差し出す。
もし3日後の日没までに戻らなかったら、「セリヌンティウス」が処刑の身代わりになる。
「メロス」は夜を徹して10里(約39キロ)の路を走り、翌朝、村に帰り着くと、妹の結婚式の準備にかかった。
2日目、無事に結婚式が行われた。
そして3日目の薄明、「メロス」は市の処刑場へ戻るべく村を飛び出した。
昨夜の豪雨で、途中の川が氾濫。
峠道まで来ると、山賊の一隊が邪魔をする。
「メロス」は持ち前の力でそれらの障害を乗り切るが、とうとう体力の限界を迎え、倒れてしまう。
弱気になった「メロス」の頭に、邪悪な考えがよぎる……
「セリヌンティウス」を裏切るつもりはなかった。
でも、もう走れない、自分は負けたのだ。
ちょっと遅れて行けば、友が身代わりになり、自分は助かる。
このまま悪徳者として生きようか。
……ふと、近くの岩の裂け目から清水が湧き出ていることに、「メロス」は気づく。
その清水を飲むと、悪い夢から覚めた。
信頼して待ってくれている友「セリヌンティウス」のために、最後まで走り抜く覚悟を決めた「メロス」。
日が徐々に沈んでゆき、最後の残光が消えようとしていたその時。
「メロス」は処刑場に飛び込んだ。
目の前で「セリヌンティウス」が磔刑の柱に吊り上げられていく。
群衆をかきわけ、「メロス」は友の両足にしがみついた。
間に合ったのだった。
縄をほどかれた「セリヌンティウス」に対し、「メロス」は涙ながらに打ち明ける。
一度だけ、友を裏切ろうとした。
頬を殴ってくれ、そうでないと抱擁できない、と。
すると、「セリヌンティウス」もまた、打ち明ける。
生まれてはじめて、一度だけ、友の心を疑った。
自分の頬も殴ってくれないと、抱擁できない、と。
2人は処刑場に響くほど思いきり殴り合い、そして、声を上げて泣きながら抱き合った。
その様子を見届けた王「ディオニス」は、心を入れ替えた。
人を信じる心を取り戻したのだった。
『走れメロス』の魅力
~正直に、走り続けること~
『走れメロス』の魅力は、主人公「メロス」がみずからの正直さを貫くところです。
「メロス」の行動原理は単純です。
悪徳に対して敏感で、権力を恐れず、悪いことは悪いと素直に主張します。
正直な男であること。
それが「メロス」の信念なのです。
王「ディオニス」が、人を信じられず、身内や臣下を次々に殺している。
市の人々はこの暴君を恐れ、息をひそめて生活しています。
そんな恐怖政治が敷かれている状況下。
ただひとり「メロス」だけが声を上げ、「ディオニス」の悪徳を非難します。
処刑を3日間待ってほしい。
「ディオニス」に対し、そうお願いする「メロス」。
無二の友「セリヌンティウス」を人質に差し出します。
3日後の日没までに戻らなかったら、友が身代わりに処刑される。
無論、戻ることが出来たなら、自分が処刑される。
文字通り決死の覚悟で走らなければなりません。
「メロス」は、まさに今、みずからの正直さを試されているのです。
正直な男であること、それが「メロス」の信念。
ゆえに「メロス」は走らなければならないのです。
心身ともに極限状態の中、「メロス」は一度倒れ、走ることを諦めようとします。
しかし、危ういところで起き上がり、最後まで走り切りました。
私たちの生活に置き換えてみると、どうでしょうか。
自分自身が試される瞬間があるはずです。
道を踏み外して、転んでしまったり。
前に進めなくなり、倒れてしまったり。
そんな時「メロス」のように、起き上がって、走り続けることができるかどうか。
諦めかけた「メロス」は、次のように自分に言い聞かせています。
「私は信頼されている。私は信頼されている。」
無二の友「セリヌンティウス」のことを思い浮かべ、自分を勇気づけたのです。
自分を信じ、大切な人やものを信じ、目的に向かって正直に走り続ける。
肝心なのは、結果を考えず、正直に走り続けること。
『走れメロス』は、頑張るすべての人に読んでほしい小説です。
まとめ
- 自分自身の信念を貫くこと
- 大切な人やものを信じること
- 結果にこだわらず正直に頑張ること
などの大切さが、主人公「メロス」の物語を通して生き生きと描かれています。
倒れて諦めそうになっても、起き上がり、走り続ける。
正直な人間であるために、なりふり構わず走り続ける「メロス」の姿は、泥臭くも美しい。
読者の心に鮮やかに残る名作です。
一度読んだことのある人も、まだ読んだことのない人も、ぜひ本を手に取ってみてください!
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