雪の温泉町で描かれる男女の純愛物語――川端康成『雪国』の魅力
※川端康成『雪国』の内容紹介
こんにちは、『文人』です。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
という書き出しで有名な川端康成の名作小説『雪国』。
雪国の温泉町を舞台に、旅の男と芸者の純愛を描いた物語です。
日本文学を代表する小説ですが、
「なんか古そう」
「いまさら読んでも……」
と敬遠している人も少なくないのではないでしょうか?
美しい文章、綺麗な情景描写、
そして恋に落ちた男女の純粋なやりとりが繊細に描かれていて、
実はいま読んでも新鮮に感じられる作品です。
今回はそんな『雪国』の内容と魅力をわかりやすく紹介していきます。
『雪国』とは?
親譲りの財産で、きままな生活を送る島村は、雪深い温泉町で芸者駒子と出会う。許婚者の療養費を作るため芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はゆきずりの愛以上のつながりを持とうとしない――。冷たいほどにすんだ島村の心の鏡に映される駒子の烈しい情熱を、哀しくも美しく描く。ノーベル賞作家の美質が、完全な開花を見せた不朽の名作。
- 作者は川端康成(1899~1972)
代表作は、『伊豆の踊子』、『雪国』、『古都』、『眠れる美女』など。
1968(昭和43)年、日本人初のノーベル文学賞受賞。 - 小説『雪国』の舞台のモデルは、新潟県の越後湯沢温泉。
作中の温泉宿のモデルは「雪国の宿 高半」であることが知られています。 - 目に浮かぶような美しい情景描写、
旅の男「島村」と雪国の芸者「駒子」、惹かれ合う男女のせつない恋心、
それらが繊細に調和しています。
川端康成にしか描けない独自の澄んだ世界観が魅力です。
魅力①
雪国に通う主人公「島村」
小説『雪国』は、主人公「島村」の視点で描かれています。
「島村」は、東京で妻子と暮らす男。
親譲りの財産があり、定職を持たず、趣味で日本舞踊や西洋舞踊の研究をしたり、文筆活動をしたりしながら過ごしています。
また、ひとりで山歩きをすることもあります。
いわば、趣味の世界に生きる、浮世離れした男です。
そんな「島村」の眼を通して、純粋な美の世界が展開されていくのが『雪国』の魅力です。
○雪国の芸者「駒子」の美しさに惹かれる
「島村」が東京に妻子を残してひとり汽車で向かう先は、雪深く、寂しい温泉町。
観光客もほとんどいなくなった年の暮れに、わざわざ雪国へ向かいます。
その理由は、ひとりの若い芸者に会いに行くため。
「島村」は1年前、山歩きの途中でたまたま雪国の温泉宿に泊まり、その芸者「駒子」と出会いました。
気心が通じたふたりは、お互いに惹かれ合います。
年若く、美しい顔立ちで、まっすぐな心を持った「駒子」。
「駒子」のひたむきな愛情に動かされ、「島村」は彼女と関係を結びます。
すでに妻子がいる「島村」にとって、「駒子」はゆきずりの愛人。
しかし、「駒子」を忘れることができない「島村」は、1年後、彼女を求めて単身雪国へ向かうのです。
○「駒子」の純粋な生き方と、「島村」の虚しさ
「島村」は雪国の温泉宿を訪ね、「駒子」と再会します。
「島村」を懐かしく想い、以前よりもさらに深い愛情を傾けてくる「駒子」。
しかし、そんな「駒子」と過ごすうち、「島村」は、虚しい気持ちになってきます。
「島村」は「駒子」の想いに応えられません。
「駒子」と一緒になり、新しい生活に踏み出すような現実的な甲斐性がないからです。
好きになった相手を一途に想い続ける「駒子」の生き方。
「島村」の眼から見た「駒子」のそういう生き方は、不器用で、損で、哀しい。
作中では「徒労」という言葉で表現されます。
けれども、「徒労」だと思えば思うほど、「駒子」が純粋で美しい女に見えてくるのです。
魅力②
雪国の芸者「駒子」の葛藤
「島村」に強く惹かれ、彼を想い続ける「駒子」。
その心情は複雑です。
雪国の芸者として働く「駒子」にとって、「島村」は頼りにならない旅の人。
帰ってしまうと、次にいつ来てくれるのかわかりません。
3度目に「島村」が雪国を訪れたとき、「駒子」はこう言います。
「あんた、なにしに来た。こんなところへなんしに来た。」
「君に会いに来た。」
「心にもないこと。東京の人は嘘つきだから嫌い。」
そして坐りながら、声を柔かに沈めると、
「もう送って行くのはいやよ。なんともいえない気持だわ。」
頼りない男に恋をしてしまった悔しさ。
けれども、愛情を傾けずにはいられない。
そんな「駒子」の純粋な生き方がせつなく感じられます。
「島村」はもうここには来ないかもしれない。
いつか自分は捨てられてしまうかもしれない。
そんな不安の中で、「駒子」は「島村」に次のように言います。
「一年に一度でいいからいらっしゃいね。私のここにいる間は、一年に一度、きっといらっしゃいね。」
帰っていく「島村」を見送るせつなさ。
また来てくれることを期待しながら待ちわびる辛さ。
報われない恋に身を焦がしながらも、
「一年に一度、きっといらっしゃいね」
と言わずにいられない。
そんな清らかなところが「駒子」の魅力です。
魅力③
『雪国』のテーマ
「島村」と「駒子」の関係は、今でいう「遠距離恋愛」。
1年に1度、女に会うためだけに雪国を訪れる「島村」と、
会えない間も「島村」のことを想い続け、待ちわびる「駒子」。
離れた場所で惹かれ合っているふたりですが、その純愛は報われません。
前にも触れた通り、「島村」には、「駒子」との現実的な生活に踏み切るだけの能力がない。
愛する男をせつなく求める「駒子」の生き方に惹かれながらも、
「島村」は彼女から離れる決意をします。
ふたりの関係はいつか破局する。
しかし『雪国』の物語は、その最後を迎える前に、幕を下ろします。
破局の見えている男女が、残された時間を愛おしむように過ごし、純粋にお互いを想い合う。
そのはかなくも美しい瞬間を切り取った小説が、『雪国』なのです。
おわりに
『雪国』の特徴は、恋愛にともなう暗い部分がないところ。
読んでいて盛り下がるような現実的な場面が省略され、
男女のドラマチックなやりとりや、お互いに惹かれ合う心の動きなどが、
雪国の情景とともに美しく描かれます。
つまり、美しい場面の連続で成り立っている小説なのです。
文学に慣れていない人でも、新鮮な気持ちで読めますよ。
興味を持った人は、ぜひ本を手に取ってみてください。
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