当ブログにはプロモーションが含まれています

生きづらさを感じた時に読みたいドストエフスキー『罪と罰』の名言集

 

ドストエフスキー罪と罰』(江川 卓/訳 岩波文庫)の名言集

 

こんにちは、『文人』です。


ドストエフスキーの小説『罪と罰』は、ロシア文学を代表する作品。

世界文学屈指の名作として現在も読み継がれています。


貧しい青年の犯した罪をめぐって、壮大に広がっていく物語。

貧困にあえぎ、社会で追い詰められていく人々。


魅力的な登場人物たちのドラマを通して、社会に生きづらさを感じる人間の救いを描いた作品です。



今回はそんな『罪と罰』の中の名言をわかりやすく紹介していきます。

 

 

 

 

名言①
七月はじめ、めっぽう暑いさかりのある日暮どき、ひとりの青年が……

f:id:humibito:20211026124210j:plain

 

 七月はじめ、めっぽう暑いさかりのある日暮どき、ひとりの青年が、S横町にまた借りしている狭くるしい小部屋からおもてに出て、のろくさと、どこかためらいがちに、K橋のほうへ歩きだした。

罪と罰(上)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P11より引用

 

罪と罰』の主人公は、「ラスコーリニコフ」という貧しい青年です。

貧乏のために学費を払えず、大学を中退。

家庭教師の仕事でわずかな金を得ていましたが、現在では働くこともやめて、下宿先の小部屋に引きこもっています。


屋根裏のような暗くて狭苦しい小部屋での、肩身の狭い下宿暮らし。

貧乏のために行き詰まった生活。


そんな抑圧された環境で暮らすうち、世間から離れて内向的になり、他者との関わりを嫌うようになった「ラスコーリニコフ」青年。

孤独な彼はしだいに、ある空想にとらわれていきます。

それは、金貸しの老婆を殺して、奪った資金で、出世の輝かしい第一歩を歩み出すという空想。


都市ペテルブルグの猛暑。

学業も出世の道も途絶え、行き詰まった貧乏暮らし。

病んだ精神。

さまざまな要因がリアルに絡み合いながら、主人公「ラスコーリニコフ」の物語は進行していきます。

 

名言②
貧乏のどん底に落ちた人間は、棒で追われるのじゃない、ほうきでもって人間社会から掃きだされる。

 

ひんは悪徳ならず、こいつは真理ですよ。いや、もっと真理なのは、飲んだくれは善行ならず、ですかな。しかし、貧乏もですよ、洗うがごとき赤貧となると、こいつはもう悪徳なんですな。ただ貧しいというだけなら、人間本来の高潔な感情も持ちつづけていられる。ところが、貧乏もどん底になったら、そうはいきません。貧乏のどん底に落ちた人間は、棒で追われるのじゃない、ほうきでもって人間社会から掃きだされる。(中略)」

罪と罰(上)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P31より引用

 

ラスコーリニコフ」が安酒場で知り合った男「マルメラードフ」の名言です。


マルメラードフ」は50過ぎの年配男。

元は官吏でしたが、仕事を辞めて、安酒場で酒浸りになっています。

彼は「ラスコーリニコフ」を相手に、熱心に身の上話を打ち明けます。


病気の再婚妻や、空き腹を抱えた子供たちがいること。

家の品物や金を持ち出して、飲み代にしてしまったこと。

娘「ソーニャ」が、家族を食べさせるために娼婦に堕ちたこと。


悲惨な家族の暮らしを思えば思うほど、飲まずにはいられない「マルメラードフ」。


マルメラードフ」は、貧乏と「貧乏のどん底」の違いをこう説きます。

普通の貧乏なら、まだ人間社会の一員でいられる。

でも、「貧乏のどん底」まで落ちたら、人間社会に居場所はない。


罪と罰』は、そんな「貧乏のどん底」を描いた物語。

ラスコーリニコフ」、「マルメラードフ」、「ソーニャ」など、「貧乏のどん底」を生きる人間たちの壮大なドラマなのです。

 

 

 

名言③
彼は斧をすっかり取りだし、なかば無意識のうちに両手でそれを振りかぶると、ほとんど力をこめず、ほとんど機械的に、頭をめがけて斧の峰をふりおろした。

f:id:humibito:20211026124248j:plain

 

 もう一瞬の猶予もならなかった。彼は斧をすっかり取りだし、なかば無意識のうちに両手でそれを振りかぶると、ほとんど力をこめず、ほとんど機械的に、頭をめがけて斧の峰をふりおろした。

罪と罰(上)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P160より引用

 

ラスコーリニコフ」は、金貸しの老婆を殺すという空想をひそかに温めてきました。


質屋を営み、客に金を貸している老婆。

ラスコーリニコフ」も何度か金を借りています。

けちで、意地悪で、遺産は誰にも渡さず、自分の永代供養にあてるつもりでいる老婆。


老婆を殺害し、溜め込んだ金を奪い、自分の出世のため、貧しい母と妹のため、そして世の中のために活用する。


ラスコーリニコフ」はその空想を、現実的な計画へと移していきます。

そしてある夜、とうとう殺害を実行してしまうのです。


斧で老婆の頭をたたき割った「ラスコーリニコフ」。

しかし、彼はどこまで正気だったのか?

彼はまるで悪魔にでも操られたかのように、「なかば無意識のうちに」、「ほとんど機械的に」、手を下したに過ぎないのです。

 

名言④
「ソーニャ! 娘! ゆるしてくれ!」

 

「ソーニャ! 娘! ゆるしてくれ!」彼はそう叫んで、彼女のほうに片手を差しのべようとした。(中略)ソーニャは弱々しい叫び声をあげて、つと駆けよると、彼を抱きかかえ、そのままじっと動かなかった。彼はソーニャの腕に抱かれて死んでいった。

罪と罰(上)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P382より引用

 

老婆殺害の後、病気で寝込み、錯乱状態におちいった「ラスコーリニコフ」。

彼は激しい恐怖感や孤独感に苦しみます。


苦悩する「ラスコーリニコフ」が、夜の通りをさまよっていた時でした。

何やら人だかりが……

様子を見に行くと、そこには、馬車に轢かれて血まみれになった男が倒れています。


事故に遭ったその男は、安酒場で出会った「マルメラードフ」でした。

ラスコーリニコフ」はすぐに救助を買って出ます。


家に運び込まれた「マルメラードフ」。

突然の出来事に、混乱する再婚妻と子供たち。

マルメラードフ」の娘「ソーニャ」も呼ばれて、娼婦の格好のまま現場に駆けつけました。


瀕死の「マルメラードフ」は、「ソーニャ」の姿を目にして、悲痛に叫びます。

「ソーニャ! 娘! 赦してくれ!」


娘を「貧乏のどん底」に追い詰め、娼婦にさせてしまった父親。

「ソーニャ」はそんな父親を包み込むように抱きかかえます。

「ソーニャ」は父親を赦したのです。

 

 

 

名言⑤
「神さまがなかったら、わたしはどうなっていたでしょう?」

f:id:humibito:20211026124310j:plain

 

「神さまがなかったら、わたしはどうなっていたでしょう?」ふいにきらきらと輝きはじめた目でちらと彼をふり仰いで、彼女は早口に、力をこめてささやき、彼の手をきつくにぎりしめた。

罪と罰(中)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P280より引用

 

ラスコーリニコフ」は、「マルメラードフ」の事故死をきっかけに、「ソーニャ」と関わりを持つことになります。


老婆殺害の事件は巷で話題となり、徐々に追い詰められていく「ラスコーリニコフ」。

ある夜、「ラスコーリニコフ」は「ソーニャ」の部屋を訪れます。


自分と同じように又借りの部屋で、「貧乏のどん底」暮らしをしている「ソーニャ」。

家具もほとんどない、貧寒とした部屋。


「ソーニャ」は、まだ18歳くらいの娘です。

肌は透きとおったように青白く、体はひどく痩せています。

彼女はひとり暮らしをしながら、娼婦で生計を立て、継母とその子供たちのためにお金を送っているのです。


家族の生活のために、体を売るという罪を犯した「ソーニャ」。

恥じらいや苦しみや絶望に打ちのめされ、何度も自殺を考え、それでも清らかな心を保ったまま生き続けている彼女。


普通ならいつ心が壊れても不思議ではない状況です。

そんな「ソーニャ」の心を支えているのが、キリスト教信仰。


「神さまがなかったら、わたしはどうなっていたでしょう?」

信仰を口にする時、「ソーニャ」の瞳は燃えるように輝き、激しい感情を露わにします。


「ソーニャ」は罪の十字架を背負い、「赦し(救い)」を求める熱心な信仰者だったのです。

 

名言⑥
ふたりとも呪われた同士だ、だからいっしょに行こうじゃないか!

 

「いま、ぼくにはきみひとりしかいない」と彼はつづけた。「いっしょに行こう……ぼくはきみのところへ来たんだ。ふたりとも呪われた同士だ、だからいっしょに行こうじゃないか!

罪と罰(中)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P290より引用

 

「ソーニャ」の部屋を訪れる前、「ラスコーリニコフ」はある決心をしていました。

その決心とは、母と娘との縁を切ること。

殺人者である自分は、もう母と娘に会う資格はない。


ラスコーリニコフ」は、「ソーニャ」に言います。

「いま、ぼくにはきみひとりしかいない」

「ふたりとも呪われた同士だ」


殺人者「ラスコーリニコフ」と、娼婦「ソーニャ」。

他人を殺した者と、自分自身を殺した者。

ふたりは罪を犯した者同士。

ラスコーリニコフ」は、「ソーニャ」に対して特別な仲間意識を抱くのです。


しかしこの時、「ソーニャ」は知りませんでした。

ラスコーリニコフ」が殺人者であることを。


なぜ彼は自分に対してそんなことを言うのか?

彼はいったいどんな罪を犯したというのか?

「ソーニャ」の胸に、不安や恐怖が募ってきます。

 

名言⑦
「あなたはなんてことを、いったいなんてことをご自分にたいしてなさったんです!」

f:id:humibito:20211026124331j:plain

 

「あなたはなんてことを、いったいなんてことをご自分にたいしてなさったんです!」絶望にかられたようにこう口走ると、彼女は突然はね起き、彼の首にとびついて、彼を抱きかかえ、両手でかたく、かたく抱きしめた。

罪と罰(下)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P116より引用

 

ラスコーリニコフ」の罪。

それは金貸しの老婆を殺したことと、もうひとつ。

たまたま現場を目撃した老婆の妹・「リザヴェータ」を手にかけてしまったこと。


老婆を殺害した際に、元々殺すつもりのなかった「リザヴェータ」も一緒に殺害してしまった。

その「リザヴェータ」は熱心なキリスト教信者。

そして、「ソーニャ」の友人でした。


誰が「リザヴェータ」を殺したのか、君だけに言う。

そう言って「ラスコーリニコフ」は、「ソーニャ」の眼をみつめます。


ラスコーリニコフ」の、苦痛に満ちた告白。

すべてを察した「ソーニャ」は、恐怖におびえます。


しかし次には我を忘れ、「ラスコーリニコフ」の足元にひざまずき、こう言います。

「あなたはなんてことを、いったいなんてことをご自分にたいしてなさったんです!」

起き上がった「ソーニャ」は、「ラスコーリニコフ」をかたく抱きしめるのです。


友人「リザヴェータ」を殺されたにもかかわらず、自分のことよりも、「ラスコーリニコフ」の孤独な苦しみに同情する「ソーニャ」。


「ソーニャ」の清らかな心に触れ、「ラスコーリニコフ」の心には忘れていた感情が込み上げてきました。

思わず涙があふれてきたのです。

 

名言⑧
だれよりも思いきってやれるものが、だれよりも正しいんだ!

 

……それでいま、ぼくは知ったんだ、ソーニャ、頭と精神が強固で力のあるものが、やつらの支配者になるんだとね! 多くのことを思いきってやる人間が、やつらの間では正しいということになる。より多くのものに唾を吐きかけられるものが、やつらの間では立法者になる。だれよりも思いきってやれるものが、だれよりも正しいんだ!

罪と罰(下)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P130より引用

 

「ソーニャ」に対して、殺人の告白をした「ラスコーリニコフ」。

ところが、彼は殺人を悔いているわけではありませんでした。


ラスコーリニコフ」青年の精神は、暗く歪んでいたのです。


母と妹を貧困から救うため、家族の期待を一身に背負い、学業に励んだものの挫折。

大学中退後、働いてわずかな金を稼ぐも、先が見通せずに挫折。


部屋に引きこもり、心を閉ざし、長いこと誰とも話さなくなり……

空想に熱中し、他人を見下すようになった「ラスコーリニコフ」青年。


彼の心を苦しめていたのは、孤独感や無力感でした。


人間の世の中は、やったもの勝ち。

誰よりも思いきってやるものが正しい。

そうして正しさを勝ち取ったものが、法を作り、支配者となるのだ。

あのナポレオンが、人間を殺して、法典を作り、フランス皇帝になったように。


ラスコーリニコフ」青年は、そのように殺人行為を正当化しようとするのです。

 

 

 

名言⑨
『十字路へ行って、みなにお辞儀をして、大地に接吻せっぷんなさい。あなたは大地にたいしても罪を犯したのです。それから世界じゅうに聞こえるように言いなさい、私は人殺しです! と』

 

 ふいにソーニャの言葉が思いだされた。『十字路へ行って、みなにお辞儀をして、大地に接吻なさい。あなたは大地にたいしても罪を犯したのです。それから世界じゅうに聞こえるように言いなさい、私は人殺しです! と』

罪と罰(下)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P359より引用

 

老婆殺害事件の容疑者として疑われている「ラスコーリニコフ」。

しかし、決定的な証拠はない。

奪った金にも、まだ手をつけていない。


このまま殺人者であることを隠して生きていくのか。

それとも、警察に自首し、刑に服するか。


ラスコーリニコフ」は苦悩を抱えながら、街をさまよいます。

彼の足は、人通りの多い広場のほうへ向かっていました。


独りきりになりたい。

でも、どうしても独りになれない自分がいる。


そうして人混みの中を歩き、広場の中央まで来た時でした。

不意に、「ソーニャ」に言われた言葉を思い出したのです。


『十字路へ行って、みなにお辞儀をして、大地に接吻なさい。あなたは大地にたいしても罪を犯したのです。それから世界じゅうに聞こえるように言いなさい、私は人殺しです! と』


この言葉の力に、心が揺れ動き、「ラスコーリニコフ」の目に涙があふれます。

彼は倒れ伏し、汚れた地面に頭を擦りつけながら口づけし、そしてお辞儀をしました。


その時、「ラスコーリニコフ」を包み込んだ感覚。

それは、「歓喜」と「幸福」でした。

「ソーニャ」の言葉が、「ラスコーリニコフ」を人の道に戻したのです。

 

名言⑩
この病みつかれた青白い顔には、新しい未来の、新しい生活への全き復活の朝焼けが、すでに明るく輝いていた。ふたりを復活させたのは愛だった。

f:id:humibito:20211026124357j:plain

 

 ふたりは口をきこうとしたが、できなかった。涙がふたりの目に浮かんでいた。ふたりはどちらも青白く、やせていた。だが、この病みつかれた青白い顔には、新しい未来の、新しい生活への全き復活の朝焼けが、すでに明るく輝いていた。ふたりを復活させたのは愛だった。おたがいの心に、もうひとつの心にとっての尽きることのない生の泉が秘められていたのだ。

罪と罰(下)』(ドストエフスキー/著 江川 卓/訳 岩波文庫)P401より引用

 

警察に自首した「ラスコーリニコフ」。

彼は徒刑囚となり、シベリアの監獄に投獄されます。


「ソーニャ」も「ラスコーリニコフ」の世話をするため、シベリアへ移り住みます。


面会を重ねるふたり。

共に時間を過ごすうち、ふたりはお互いを心の底から愛していることに気づきます。


夕暮れの孤独からはじまった「ラスコーリニコフ」の物語は、「ソーニャ」との愛に輝く朝焼けの幸福で幕を閉じるのです。


「罪」を自覚し、「罰」を受け入れて、苦しむ人物たち。

そのような人たちが、本当の愛に目覚め、他者を愛し、幸福を与え合う物語。

罪と罰』は、そんな愛と幸福の物語でもあるのです。

 

 

 

おわりに

 

ドストエフスキー罪と罰』の名言集、いかがでしたか?


主人公「ラスコーリニコフ」は、社会でうまく生きられない個人の象徴でもあります。

自分は悪くない。

悪いのは社会のほうだ。

その思いが孤独を深め、生きづらさとなって自分自身に跳ね返ってくる。


本作を読むと、人と人が許し合い、幸福を与え合いながら生きていくことの大切さが身にしみます。


興味を持った方は、ぜひ本作を手に取ってみてください。

 

 

 

 

🔎おすすめの記事

honwohirakuseikatu.hatenablog.com

 

🔎こちらの記事もよく読まれています!

honwohirakuseikatu.hatenablog.com