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自然災害と日常――宮沢賢治『水仙月の四日』の魅力

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宮沢賢治水仙月の四日』の内容紹介

 

こんにちは、『文人』です。


地震、台風、猛暑、豪雪……毎年のように起こる自然災害。

さっきまで健康に生きていた人、見慣れた風景、当たり前だった日常が一瞬で失われてしまう。

自然は敵ではない、とわかっていても、災害を前にすると、心の整理がつかずモヤモヤしますよね。


今回紹介するのは、宮沢賢治の童話作品『水仙すいせんづきの四日』です。

人間の命を左右する自然界のありさまが、想像力をくすぐる美しい物語となって、読者の胸に迫ってきます。

そんな水仙月の四日』の内容と魅力をわかりやすく紹介していきます。

 

 

 

 

 『水仙月の四日』とは?

※「水仙月の四日」は『注文の多い料理店』(宮沢賢治/著 新潮文庫)に収録されている一編です。

あらすじ

雪婆ゆきばんご」がまだ遠くへ出かけていた頃、丘の下には、赤い毛布ケットをかぶったひとりの子供が家路を急いでいました。辺り一面は雪景色。雪に覆われたその丘の上を、2匹の「雪狼ゆきおいの」を連れた「童子ゆきわらす」が歩いてきます。「雪童子」も「雪狼」も、人間には見えない存在です。


風が強くなり、吹雪になると、風の中から、

「さあ降らすんだよ。降らすんだよ」

という声が聞こえてきました。「雪婆んご」が来たのです。「雪童子」はその命令に従って、雪を降らせます。丘では、あの赤い毛布をかぶった子供が、雪の中でよろよろ足をとられて泣いています。「雪童子」は心配そうに、その子供のところへ行きました。「雪婆んご」も子供に気づいて、言いました。

「おや、おかしな子がいるね、そうそう、こっちへとっておしまい。水仙月の四日だもの、一人や二人とったっていいんだよ。」

「雪童子」は子供を雪の中に倒しました。そして命を奪うふりをしながら、こっそり赤い毛布をかけてやり、雪をかぶせ、子供を守りました。


夜明けが近くなり、「雪婆んご」がようやく去っていきました。吹雪はすっかり晴れました。夜が明けて、「雪童子」は昨日の子供が埋まっているところへ向かい、赤い毛布の端が見えるくらいまで雪を掘ってやりました。子供は眠っていました。

「お父さんが来たよ。もう眼をおさまし。」

やがて子供の父親が叫びながら丘を走ってきました。

 

  •  作者は宮沢賢治(明治29年~昭和8年)

    岩手県の花巻の生まれ。詩人であり童話作家

    イーハトーブ」を舞台に数多くの作品を残しました。「イーハトーブ」とは、郷土の岩手をモチーフに賢治が心のなかに描いた理想郷。


  • 水仙月」とは、「水仙が開花する月」という意味。

    「4月」の説が濃厚ですが、賢治はあえて「水仙月」という言葉を創作して、読み手の想像にゆだねています。


  • 水仙月の四日』は自然を擬人化させた物語です。

    「雪婆んご」は、北西から渡ってきて日本列島に寒気をもたらす寒気団のイメージ。

    「雪童子」は雪を降らせる精霊といったところでしょう。

    「雪婆んご」も「雪童子」も、賢治の創作です。

 

 

 

水仙月の四日』の魅力

 

①「雪婆んご」と「雪童子

 

○ 「雪婆ゆきばんご」について

 

物語の鍵になるのは、「雪婆んご」という存在です。

灰色の髪に、猫のようにとがった耳、金色に光る眼、口は紫色で、とがった歯を持っています。


この恐ろしい姿をした「雪婆んご」は、一種の災害。

水仙月の四日」と呼ばれる時期になると、北西の風とともにやって来て、「雪童子」に命令し、豪雪を降らせます。

 

○「童子ゆきわらす」について

 

物語の主人公ともいえる存在が、「雪童子」です。

白熊の毛皮で作られた三角帽子をかぶり、革鞭かわむちを握っています。

雪狼ゆきおいの」という狼を2匹従えています。


「雪童子」は雪を降らす力を持った精霊のような存在。

手にした革鞭を振り鳴らし、空から真っ白の雪を降らせます。


「雪童子」は子どものように無邪気で、温厚な性格です。

しかし「雪婆んご」が来ると、まるで心変わりしたように緊張した面持ちになり、命令に従って豪雪を降らせます。

 

○両者の違い

 

「雪婆んご」と「雪童子」は、人間には見えません。

この両者は自然のなかでそれぞれ役割を担っています。


「雪婆んご」は自然のなかの非日常、つまり人間から見た災害。

それに対して、「雪童子」は日常的な自然の営みです。

 

②「水仙月の四日」とは何か?

 

○自然界の行事

 

物語のキーワードとして登場する「水仙月の四日」。

この日になると、北西の風が荒れ狂い、空は暗い灰色になり、辺りの景色はぼんやりと煙ったようになります。

そして「雪婆んご」がやって来るのです。


水仙月の四日」になると、猛吹雪と豪雪が起こります。

日常的な自然の営みとは異なった、とくべつな日なのです。

水仙月の四日」とは、自然界における行事であり、お祭りです。

 

○人間の命がうばわれる日

 

この「水仙月の四日」、人間から見たらどうでしょうか?


自然が猛威を振るうのですから、人間にとっては恐ろしい日です。

物語にはひとりの人間の子供が登場します。

その子供は家に帰る途中で、猛吹雪におそわれます。

 

「ひゅう、ひゅう、なまけちゃ承知しないよ。降らすんだよ、降らすんだよ。さあ、ひゅう。今日は水仙月の四日だよ。ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅうひゅう。」
 そんなはげしい風や雪の声の間からすきとおるような泣声がちらっとまた聞えてきました。雪童子はまっすぐにそっちへかけて行きました。雪婆んごのふりみだした髪が、その顔に気みわるくさわりました。峠の雪の中に、赤い毛布ケットをかぶったさっきの子が、風にかこまれて、もう足を雪から抜けなくなってよろよろ倒れ、雪に手をついて、起きあがろうとして泣いていたのです。

(中略)

「ひゅう、もっとしっかりやっておくれ、なまけちゃいけない。さあ、ひゅう」
 雪婆んごがやってきました。その裂けたように紫な口も尖った歯もぼんやり見えました。
「おや、おかしな子がいるね、そうそう、こっちへとっておしまい。水仙月の四日だもの、一人や二人とったっていいんだよ。」

注文の多い料理店』(宮沢賢治/著 新潮文庫)収録「水仙月の四日」より引用

 

猛吹雪の中で泣いている子供を見つけた「雪婆んご」は、こんなことを言っています。

「おや、おかしな子がいるね、そうそう、こっちへとっておしまい。水仙月の四日だもの、一人や二人とったっていいんだよ。」


つまり、その子供の命をうばってしまえ、ということ。

水仙月の四日」だから、人間の命をうばってもよい、と言っているのです。


人間から見たとき、「水仙月の四日」は残酷な意味を持ちます。

それは、人間の命がうばわれる日である、ということです。

 

③自然災害と日常

 

○子供の命を救う「雪童子

 

猛吹雪におそわれ、命をとられそうになっていた子供。

それを救ったのは、「雪童子」です。


「雪童子」は、命をとってしまえという「雪婆んご」の命令に従うふりをしながら、こっそり毛布をかぶせ、優しく雪をかけてやります。

子供が凍えないように、そして「雪婆んご」に見つからないように隠してやったのです。


「雪童子」からすれば、相手は名前も知らない人間の子供です。

子供のほうも、「雪童子」の姿を見ることも、声を聴くこともできません。

直接的な交わりがないにもかかわらず、心優しい「雪童子」は子供の命を救うのです。

 

○人間の命を左右する自然

 

ときに人間の命をうばい、ときに救う。

物語のなかでは、人間の命を左右する自然のありさまが、「雪婆んご」と「雪童子」、それぞれに象徴されています。


「雪婆んご」に象徴されるのは、非日常であり、人間の命をうばう自然災害です。

一方で「雪童子」に象徴されるのは、日常であり、人間の命を守り育む、自然の営みです。


「雪婆んご」の恐ろしさと、「雪童子」の優しさ。

童話『水仙月の四日』には、自然界の表と裏の変化や、人間と自然の不思議な調和が、美しく描かれています。

 

 

 

まとめ

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宮沢賢治の童話作品『水仙月の四日』は、自然界における日常と非日常を描いた作品です。


自然には、ある日とつぜん災害となり、人間の日常を壊してしまう恐さがあります。

でも、そればかりではありません。


水仙月の四日』は、

「私たちが当たり前だと思っていた日常が、実は、自然によって守られ営まれていた」

ということに、改めて気づかせてくれる作品です。



自然災害に注目しがちな現代、モヤモヤする心を整理するためにも、ぜひおすすめの作品です。

気になった人は、ぜひ本を手に取ってみてください。

※「水仙月の四日」は『注文の多い料理店』(宮沢賢治/著 新潮文庫)に収録されている一編です。

 

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