明治時代の情緒を感じられる夏目漱石『三四郎』の魅力
こんにちは、『文人』です。
夏目漱石の『三四郎』は、漱石作品の中でも『坊っちゃん』『こころ』と並んで人気の高い名作小説です。
個性的で魅力のある登場人物たち。
明治時代の東京の生き生きとした雰囲気。
まるで自分自身が物語の世界に入り、呼吸しているような読書体験ができますよ。
今回はそんな『三四郎』の内容と魅力を初めての人にもわかりやすく紹介していきます。
『三四郎』とは?
- 作者は夏目漱石(1867-1916)。
明治から大正にかけて活躍した、近代文学を代表する文豪です。 - 明治41年(1908)9月1日から12月29日まで、朝日新聞に連載されました。
-
作中の時期と、連載当時の時期をリンクさせているのが特徴。
『三四郎』では秋から冬にかけての季節の移り変わりや、当時の風物詩、時事ネタなどが描かれています。
時期的にも、秋の読書にぴったりですね。 - 『三四郎』は、情景描写が魅力です。
当時の街並みや人々の情景が、絵画のように鮮やかに描かれています。
読者が主人公「三四郎」の眼を通して、小説の世界を体感できるようになっているのです。
『三四郎』の魅力
①平凡な主人公「三四郎」
主人公の「三四郎」は、熊本の高等学校を卒業し、東京帝国大学の文科(今の東大文学部)へ進学するために上京してきた青年です。
言うなれば、トップクラスの学力を備えた、エリートの卵といったところでしょう。
そんな「三四郎」ですが、人物像は平凡そのもの。
言動、行動、思考、どれも押しなべて普通です。
読者をあっと驚かせるような思いきったことは何もしません。
文学史上、稀に見るほどの平凡な主人公、それが「三四郎」です。
②残念な「三四郎」
小説の大きな魅力となっているのが、「三四郎」を取り巻く人物たち。
登場人物たちはみんな強烈な個性を発揮して、「三四郎」に絡んできます。
となれば、おもしろそうな物語が展開していきそうなところ。
しかし、残念ながらそうはいきません。
「三四郎」は動かないのです。
たとえばこんなふうに――
「迷子」
女は三四郎を見たままでこの一言を繰返した。三四郎は答えなかった。
「迷子の英訳を知っていらしって」
三四郎は知るとも、知らぬともいい得ぬほどに、この問を予期していなかった。
「教えて上げましょうか」
「ええ」
「迷える子――解って?」
三四郎はこういう場合になると挨拶に困る男である。咄嗟の機が過ぎて、頭が冷かに働き出した時、過去を顧みて、ああいえば好かった、こうすれば好かったと後悔する。といって、この後悔を予期して、無理に応急の返事を、さも自然らしく得意に吐き散らすほどに軽薄ではなかった。だからただ黙っている。そうして黙っている事が如何にも半間であると自覚している。
『三四郎』(夏目漱石/著 岩波文庫)より引用
「三四郎」の残念なところは、何か普通ではないことが起こると、それに対して、うまく反応できなくなってしまうところ。
若くて美しい女性「美禰子」と知り合った「三四郎」。
2人きりになり、良い雰囲気なのに、会話が弾まない。
「三四郎」は気の利いた返事ができず、黙ってしまいます。
肝心な場面で動くことができず、せっかくのシチュエーションも中途半端に終わってしまう。
読んでいると、絶妙にもどかしい気持ちになります。
でも、2人の男女のやりとりの微妙な息づかいや緊張感が伝わってきて、思わず引き込まれてしまう。
こういう場面が小説の中にいくつも出てきます。
③VRシミュレーションゲーム
小説『三四郎』の世界は、たとえるならVRシミュレーションゲームです。
読者自身が「三四郎」の視点になり、小説の世界を体感する。
ところどころで重要な場面が出てきます。
ゲームでいえば、物語の展開を左右する分かれ目。
どういう選択をするかによって、その後の展開が変わるでしょう。
しかし、ここで問題が発生します。
平凡な主人公である「三四郎」は、思いきった選択ができません。
どんなに重要な場面も、ことごとくスルーしてしまいます。
主人公「三四郎」とは、読者を焦らすような一種の仕掛けです。
物語が発展しそうなのに、発展しない。もどかしいですよね。
でもその代わり、さまざまな場面が鮮やかに浮かび上がり、私たち読者の想像を掻き立てるのです。
読者を引き込み、小説の世界にいつまでも留まらせるような魅力を持った作品、それが『三四郎』です。
おわりに
夏目漱石の『三四郎』は、秋の静かな時間の読書にぴったりな名作小説です。
平凡で奥手な主人公「三四郎」。
でも考えてみれば、人生なんて戸惑いの連続ですよね。
「三四郎」の行動にもどかしさを感じつつも、共感してしまいます。
ぜひあなたも主人公「三四郎」になって、懐かしさを感じさせる明治時代の空気を味わいながら、読書に浸ってみてくださいね。
🔎おすすめの記事
honwohirakuseikatu.hatenablog.com
honwohirakuseikatu.hatenablog.com