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【書評】怖いだけではない怪談の魅力―『小泉八雲集』(新潮文庫)―

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小泉八雲集』(小泉八雲/著 上田和夫/訳 新潮文庫)のレビュー

 

 

小泉八雲ラフカディオ・ハーン)、日本に帰化した外国人で、日本の古い伝説や怪談を海外に伝えた人。どこかで耳にしたことはあっても、著作を読んだことはなかった。そんな私が初めて手に取ってみたのが本書だ。

本書は、小泉八雲の代表作を集めたアンソロジー。主に怪談話が中心で、さらに「日本人の微笑」、「草ひばり」といった名随筆と呼ばれる作品も収録されている。


琵琶法師・芳一に夜な夜な琵琶を弾かせ、かつて壇ノ浦で起きた一族の悲劇を思い、激しくむせび泣く平家の怨霊たちを語った「耳なし芳一のはなし」。

ある吹雪の夜、木こりの青年の命を奪おうとして奪えず、後に女房になった美しい白い女との哀しい別れを語る「雪おんな」。


一度は聞いたことのある怪談が、情緒ある言葉で生き生きと語られており、登場人物の台詞も、場面描写も生々しい。丁寧に描かれた細部に引き込まれ、どの話も新鮮な読後感だった。

本書を読んで気づかされたのは、怪談の奥深さだ。怪談と聞くと、怖い話というイメージばかりがつきまとう。しかし、ただ怖いだけではない。怖さよりはむしろ、胸を打たれる話が多い。怪談の中には、その時代の人々の暮らし、生活からにじみ出る人情があり、家族や恋人を想う心があり、どうにも救いようのない現実からくる切なさがある。小泉八雲の怪談の魅力は、そのような日本人の生活感に根ざした心情が見事にすくい上げられているところだ。だから怖いだけではない。切なくも美しい。何度でも読み返したくなる。


収録されているどの作品にも、古い日本の趣が感じられる。神話や伝説や民間信仰が、現代よりも深く浸透していた頃の、神々の国・日本。そんな古い日本の趣がまだ多く残っていた明治時代に海外からやって来たハーンには、生活の中で触れる風俗や習慣が、日本人の口から伝えられる怪談話が、どんなに新鮮に、魅力的に感じられたことだろう。本書からはその感動の一端が伝わってくる。


本書は、小泉八雲をまだ読んだことのない人にはぴったりの入門書なので、興味がある人にはぜひおすすめだ。

読み終えた後、身近にある古い物に目を留めてみる。昔ながらの風景を探してみる。夜の草むらから響く虫の声に耳を傾けてみる……