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被災者に寄り添う物語―宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』の魅力―

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宮沢賢治グスコーブドリの伝記』の内容紹介

 

こんにちは、『文人』です。


災害がもはや身近になってしまっている世の中。

災害の現実と向き合いながら物語を書いたのが、宮沢賢治です。


宮沢賢治の名作童話『グスコーブドリの伝記』は、凶作・飢饉ききんという災害を体験した主人公・グスコーブドリの一生を描いた物語。

過酷な運命に振りまわされながらも、災害後をひたむきに生きるグスコーブドリの姿に心を打たれる作品です。


そんなグスコーブドリの伝記』の内容と魅力をわかりやすく紹介していきます。

 

 

 

 

グスコーブドリの伝記』とは?

※「グスコーブドリの伝記」は『新編 風の又三郎』(宮沢賢治/著 新潮文庫)に収録されている一編です。

あらすじ

グスコーブドリはイーハトーブの森で生まれました。両親と妹の4人家族。お父さんは木こりの仕事を、お母さんは畑仕事をしています。グスコーブドリは妹のネリと一緒に、森で遊びながら暮らしていました。


グスコーブドリ10歳、ネリ7歳の年、天候不順が続き、作物が不作になりました。次の年には飢饉ききんになり、ほんのわずかな食べ物でしのぎました。その次の年には、両親が家を出たきり帰ってこなくなり、妹のネリは人さらいに連れて行かれ、残ったのはグスコーブドリ1人でした。


飢饉が去りました。グスコーブドリは仕事を転々とした後、みんなが凶作や飢饉で困らなくなる方法を探すため、勉強をします。そしてイーハトーブ火山局に就職しました。


グスコーブドリが火山局の技師となり、27歳になった年のこと。またあの天候不順がやって来ました。このまま寒さが続けば凶作・飢饉になり、昔の自分たち家族のような思いをする人がたくさん出てきてしまう。そう考えたグスコーブドリは、ひとつの対策を実行しました。

それは火山を噴火させ、地球全体を温め、例年通りの気候に戻すというもの。しかしその仕事を成功させるには、誰か1人が最後まで火山に残り、犠牲ぎせいにならなければなりません。グスコーブドリはその最後の1人の役を引き受けました。仕事は成功しました。グスコーブドリの家族のようになるはずだった人たちは、その年、楽しく豊かに暮らすことができたのです。

 

  •  作者は宮沢賢治(明治29年~昭和8年)

    岩手県の花巻の生まれ。詩人であり童話作家

    イーハトーブ」を舞台に数多くの作品を残しました。「イーハトーブ」とは、郷土の岩手をモチーフに賢治が心のなかに描いた理想郷。


  • 東北地方は凶作や飢饉の多い地域。

    冷害により夏になっても気温が低く、作物が育たず、深刻な凶作におそわれることがありました。


    グスコーブドリの伝記』が発表されたのは昭和7年。

    その後、昭和9・10年には、東北地方で歴史的な大凶作になり、たくさんの人々が飢饉で苦しんでいます。

    グスコーブドリの伝記』は、そのような現実に寄り添って書かれた物語です。

 

 

 

グスコーブドリの伝記』の魅力

 

①グスコーブドリの被災

 

○主人公・グスコーブドリとその家族について

 

主人公・グスコーブドリが生まれたところは、イーハトーブ(創作地名)の大きな森のなかにある家です。


お父さんは、木こりの仕事をしています。

お母さんは、畑仕事をしながら家族を支えています。

そして、ネリという歳が3つ離れた妹がいます。


両親は仕事をし、グスコーブドリとネリの兄妹は森で歌をうたったり、木の幹に文字を彫ったりして遊びながら楽しく暮らしていました。

 


 

○凶作・飢饉ききん、そして家族の離散

 

森で楽しく暮らしていたグスコーブドリ一家。

ところが、ある年から生活が一変します。


グスコーブドリが10歳、ネリが7歳になった年です。

天候不順により凶作が続き、とうとう飢饉になります。

一家はわずかな食べ物でしのいでいましたが、徐々に生活が厳しくなっていきます。


最初にお父さんが家を飛び出し、次にお母さんが出て行きました。

その後、妹のネリも、人さらいに連れて行かれてしまいます。

こうして家族は離れ離れになり、グスコーブドリ1人が残されたのです。

 


 

○災害の恐さ

 

凶作と飢饉により、家族と別れ、独りになってしまったグスコーブドリ。


当たり前だと思っていた生活が、天候ひとつで壊れてしまう。

その結果、人生が狂い、想像もしなかったような辛く恐ろしい目に遭う。


グスコーブドリの伝記』では、そんな災害の恐さが描かれています。

 

②凶作と飢饉

 

○グスコーブドリ一家を襲った凶作と飢饉について

 

グスコーブドリの人生を変えてしまった凶作と飢饉。

どのように描かれているのか見てみましょう。

 

 そして、ブドリは十になり、ネリは七つになりました。ところがどういうわけですか、その年は、お日さまが春から変に白くて、いつもなら雪がとけると間もなく、まっしろな花をつけるこぶしの樹もまるで咲かず、五月になってもたびたびみぞれがぐしゃぐしゃ降り、七月の末になっても一向に暑さが来ないために去年いた麦もつぶの入らない白い穂しかできず、大抵たいていの果物も、花が咲いただけで落ちてしまったのでした。
 そしてとうとう秋になりましたが、やっぱり栗の木は青いからのいがばかりでしたし、みんなでふだんたべるいちばん大切なオリザ(注:「コメ」のこと)という穀物も、一つぶもできませんでした。野原ではもうひどいさわぎになってしまいました。

『新編 風の又三郎』(宮沢賢治/著 新潮文庫)収録「グスコーブドリの伝記」より引用

 

グスコーブドリ10歳、ネリ7歳の年、天候不順によってさまざまな異常が起こります。



雪解けになると咲くはずのコブシの花が咲かない


5月
たびたびみぞれが降る


7月
気温が上がらない。冷害のために、麦には粒がつかず、白い穂しかできない。果物も花が咲くだけで、実らない。



栗は青く、中身が空っぽのものばかり。主食のコメも実らない。


このように、作物の異常、不作のようすが具体的に描かれています。

凶作におびえる人々のようすが想像できるくらい、とても現実的な描写です。


その後も凶作が続き、いよいよ飢饉になります。

グスコーブドリの一家は、木の実や、根っこや、木の皮の柔らかい部分などを食べてしのぎます。


実際、宮沢賢治の生まれた東北地方は、冷害による凶作・飢饉が多いところです。

グスコーブドリの伝記』が発表された前後も、歴史的な大凶作・飢饉が起こっています。

そのような災害のなかで生まれた作品だけに、フィクションの枠を越えた切実さが感じられます。

 

③災害後を生きる

 

○その後のグスコーブドリの生活

 

飢饉が過ぎた後、独りになったグスコーブドリ少年は、食べていくために仕事を転々とします。


ところがどの仕事も長続きしません。

火山の噴火による火山灰の影響、雨が降らないことによる干ばつ、そういった自然災害が襲ってくるたびに仕事がなくなってしまうのです。


そこでグスコーブドリは勉強し、災害で誰も苦しまないようにする方法を探します。

 


 

○命がけで人々を救ったグスコーブドリ

 

火山局の技師になったグスコーブドリ。

グスコーブドリ27歳の年、またあの頃のような天候不順が襲ってきます。

このまま寒さが続けば、凶作・飢饉になり、自分たち家族のような辛い目に遭う人たちがたくさん出てきてしまう。


そこでグスコーブドリが考えたのは、火山を噴火させ、そのガスで地球の気温を上げ、ふつうの天候に戻すという方法。

しかしそれを成功させるには、誰か1人が最後まで火山に残り、噴火の犠牲にならなければなりません。


グスコーブドリはその最後の1人の役を引き受け、たくさんの人々を凶作・飢饉から救いました。

 


 

○災害後をどう生きるか

 

グスコーブドリの伝記』の大事なテーマは、

「災害後をどう生きるか」

凶作・飢饉の被災者であるグスコーブドリには、自分と同じような辛い目に遭う人たちを見たくない、という思いがあります。


災害はいつかまたやって来る。

そして過去の自分のように、飢えたり、家族と離れ離れになったりする人がたくさん現れる。


グスコーブドリはそのような未来を変えるため、火山局の技師になり、結果、災害を未然に防ぎました。


災害について学び、行動すれば、未来は変えることができる。

凶作・飢饉という現実のなかで生きた作家・宮沢賢治の祈りを感じる作品です。

 

 

 

まとめ

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宮沢賢治の名作童話『グスコーブドリの伝記』は、凶作・飢饉という災害を体験した主人公・グスコーブドリの人生を伝記風に描いた物語です。


災害の痛みを知り、自分と同じような辛い目に遭う人を出さないために、勉強し、仕事をするグスコーブドリ。

「災害後を生きる」ためのひとつの理想形が描かれています。


宮沢賢治は『グスコーブドリの伝記』の物語を通して、当時の災害の現実と、災害を乗り越えて生きていく人への希望を伝えようとしたのでしょう。


気になった人はぜひ本を手に取ってみてくださいね。

※「グスコーブドリの伝記」は『新編 風の又三郎』(宮沢賢治/著 新潮文庫)に収録されている一編です。

 

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